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なぜユヴェントスはC・ロナウド獲得が可能だったのか?経済的に見る世紀のビッグディールの真相

2018年7月22日(日) 0:09 

 
移籍に関わる費用はどれほどになるのか。特に相手が“CR7”となれば、おそらく莫大な金額だろう。それでもトリノのクラブは、“贅沢な移籍”の実現へと動いた。

FW クリスティアーノ・ロナウドは来年、34歳の誕生日を迎えるとはいえ、イタリア中の注目を集めた移籍であることに変わりはない。1億ユーロ(約131億円)の年間売り上げを誇る企業を買収するようなものだからだ。フォーブス世界長者番付でスポーツ選手として第3位にあたるポルトガル人スターは、年俸や個人スポンサーを含めると、たった一人でセリエA全クラブの3分の2以上の収入を得ている。

■支出はどれほどのものに?



ところでユーヴェはC・ロナウドを獲得するために、どれほどの支出を迫られたのか。そしてビアンコネーロのクラブは、親会社であるエクソール・フィアットから課されている通り、経済的に自立してまかなうことができるのだろうか。

近年、ユーヴェは、収入とコスト間の収支均衡がある程度とれるようになった。アンドレア・アニェッリを会長とするクラブは、安定して4億ユーロ(約526億円)以上にのぼる営業収入(テレビ放映権料、チャンピオンズリーグからの収入、スタジアムや商業部門など)を得ている。一方で、営業コストは約4億ユーロとされ、移籍金の償却など他の経費が加わると、毎年、ユヴェントスの支出は5 億ユーロ(約658億円)ほどになる。移籍市場での利益、そしてジュゼッペ・マロッタとファビオ・パラティチの経営手腕のおかげで、クラブは2016年度(400万ユーロ・約5.3億円)および2017年度(4200万ユーロ・約55億円)を黒字の決算で終えることができた。だが2018年度は一転して、コストの増加により、赤字決算が見込まれている。例えば上半期は、償却費が4000万ユーロ(約53億円)から5300万ユーロ(約70億円)に増加し、年俸も9700 万ユーロ(約128億円)から1億400万ユーロ(約137億円)に増加した。ユーヴェの財政は赤字傾向にあるため、収益が目に見える形で増加するように方向転換を行わなければ、すでに今から慎重な監視下に置かれるべきであることを意味する。

そしてクリスティアーノ・ロナウドの獲得により、状況は明らかに悪化している。フロレンティーノ・ペレス会長が要求した移籍金1億-1.2億ユーロ(約131億-158憶円)に加え、CR7の年俸は少なくとも3000万-3500万ユーロ(約40億-46億円)と見込まれる(ブランコスは3000万ユーロに引き上げて更新をオファーしたが断っていたようだ)。したがって契約期間4年間において、ユーヴェはさらに毎年1億ユーロ(給料と税金を含めた約7000万ユーロ、移籍金の償却費用約2500-3000万ユーロ)ほどを負担しなければならない。

■避けなければならない状況とは…

どのようにこの支出を補うのかが、今回の移籍の中心的なテーマだった。ユーヴェにとって、この金額分を取り返すことは問題ではないが、すべてをすぐにとなると話は違ってくる。FFP(ファイナンシャル・フェアプレー)上、2019年6月末に精査される決算では、前年度の4200万ユーロの黒字(この中から2018 年度の赤字分が引かれる)を充てることができ、C・ロナウドの契約金の負担を軽減できる。2017年、2018年および2019年6月末を対象とした3期の決算については、2019-20シーズンまで精査されることはない。ただ2018年6月1日以降、適用される規定に従えば、今夏の移籍市場において、ユーヴェが収入と支出の差額で1億ユーロを超える赤字を出した場合、直ちに精査されることになるため、選手を放出し、あらゆる犠牲を払ってでも、この状況は避けなければならない。だがCR7を獲得したことで、ユーヴェはビジネスプランをどのように見直すつもりなのだろうか。明らかに道は2つしかない。

■残された2つの道





コストを減らすこと、そして収入を引き上げること、それが今のユヴェントスに求められる最大の課題だ。

まず1つ目の点について言えば、例えばゴンサロ・イグアインを売却することで、クラブは現金を手にし、新たな投資へと回せる。そして同時に、彼に支払っている約1500万ユーロ(約20億円)を節約することが可能になる。さらにジャンルイジ・ブッフォンに代わり、マッティア・ペリンが加入したことで節約した分も含めれば、約2000万ユーロ(約26億円)の削減になる。

続いて収入面についてだが、これから1年間の収益を(FFP上、前年度までの収益を考慮しつつ)4000万-5000万ユーロ(約53億-66億円)ほど、最終的に7000万-8000万ユーロ(約92億-105億円)ほど引き上げられるように行動を起こさなければならない。ユーヴェは現在、チャンピオンズリーグを含めると、毎年 6000万ユーロ(約79億円)弱をスタジアムから得ているが、こちらを少なくとも1000万ユーロ(約13億円)は増やす必要がある。ただC・ロナウドの加入により、これまで散々議論されていたチケットの値上げは、より容易く受け入れてもらえそうだ。また2018年から2021年までの3年間のイタリア国内のテレビ放映権料は15%以上増加しており、ビアンコネーロの金庫に700万-800万ユーロ(約9.2億-11億円)の増収が見込まれる。

したがってユーヴェは、あと5000万-6000万ユーロ(約66億-79億円)の収益を工面しなければならない。そのためには、成績に応じた賞金が分配されるチャンピオンズリーグにおいて、少なくとも準々決勝には確実に進出することが求められる。また商業部門に力を入れる必要がある。2017年6月末までのユヴェントスの収入は、スポンサーや広告で7500万ユーロ(約99億円)、グッズ販売により1900万ユーロ(約25億円)ほどになっており、合計1億ユーロ近くに上る。C・ロナウドの登場により、これらの項目も順当に30%の増加が見込まれており、C・ロナウドの費用を大幅にカバーできることになる。ピッチや財政面において、黒字をもたらすような良い成績が収められれば、この金額はカバーできるはずであり、実現できないことはない。したがってCR7獲得は計算上、ユーヴェにとって不可能ではないミッションだったということだ。

■ロナウドの真の目的



続いてC・ロナウドの真の目的にも言及する必要がある。それは、リオネル・メッシの年俸5000万ユーロ(約66億円)を超えることだ。だがこの点において、ユーヴェが彼を満足させることはできない。ただCR7は、ナイキだけではなく、アルマーニやタグ・ホイヤー、カストロール、EAスポーツ、ハーバライフ、アメリカンツーリスターなどとパートナーシップを結んでいる。さらにSNSでのフォロワー数は3億5000万人を超え、年俸以外にも年間1億ユーロを超える収入を得ている。そこで親会社であるエクソール・フィアット・クライスラーが重要な役割を果たした可能性はある。直接、獲得資金を援助する形ではなく、自動車会社の世界的な広告塔としての大きな契約を持ちかけて見せたのかもしれない。

今夏の移籍市場において実現したC・ロナウドのユヴェントス移籍は、ペレス会長や代理人のジョルジュ・メンデス氏、C・ロナウド本人だけでなく、アニェッリ一族の思惑も混じり合った手練の業の取引だった。

文=マルコ・ベリナッツォ/Marco Bellinazzo

(提供元:Goal.com

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